ピアノを弾いている幼児の手

4~6歳のレッスンと練習

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幼児期は脳の成長期。4~6歳の幼児クラスでは、とても重要な導入レッスンを行っています。この記事では、そのレッスン内容とお家練習について、 内容・目的・理由、そして困った時のヒントも取り上げています。

4~6歳でできること

南福島ミュージックルームの基本レッスンは、総合学習+適期指導です。

総合学習のレッスンは、読んで弾くだけでなく、音感、リズム感、テンポ感、ハーモニー感など、多感覚を使う総合的な内容を指導します。

適期指導というのは、心身の成長段階に合わせた時期に、適切な方法で段階的に指導する進め方です。具体的には、感覚神経が最も成長する時期(臨界期)に合わせて行います。

聴覚の臨界期

例えば聴覚は、胎児のうちから成長し始めています。臨界期は4〜5歳、6歳には成長曲線が落ち始め、8~9歳ごろに止まります。

絶対音感を視野に入れた指導では、臨界期を過ぎた6歳で限界を感じます。もし絶対音感を視野に入れないとしても、一生に一度の臨界期は音感トレーニングに最適の時期と言えます。

触覚、協調運動

この年齢は、指先を動かすスキルも上がり始めます。

紙を折ったり、簡単な文字を書いたり、ハサミやセロハンテープを使ったり、様々な作業を通じて視覚と触覚の統合も強化されて行く時期です。

体の使い方も上手になってきます。

階段の上り下り、不安定な荷物運び、レッスンバックを持ったまま靴を履くなど、脳の運動系の領域も刺激される時期です。

このように、4~6歳は多感覚的なアプローチが可能な時期なので、総合学習への幅広い土台を築くには最適なのです。

エレクトーンを弾く幼児の両手

どんな進め方がいい?

多感覚にアプローチする


鍵盤奏に入ったお子様は、楽譜を見て(視覚)、音を聴きながら(聴覚)、鍵盤を弾く(触覚)、と言う複数の感覚を組み合わせて、脳内で結びつけています。

弾く課題が少ないお子様には、歌いながら弾く、歌いながら叩く、と言う「歌いながら練習」の課題が出ています。

こうした多感覚の経験は、脳の様々な領域を一緒に活性化してくれます。

楽しさ、遊び感覚を感じる方法で

楽器の練習は、継続することが大事です。自分で読んで、自分で練習して、自分で表現して弾けるようになるまで、何年もかかるからです。

続けるためには楽しさも必要です。ですが、幼児クラスの教本には「練習らしい練習」をしないと先に進めない曲もあります。

ですから、単調な繰り返し練習にならないように遊び感覚を取り入れてみましょう。

例えば4歳前半のレッスンでしたら、お手玉の投げ掴み(協調運動)、歌や伴奏に合わせた手拍子(リズム感覚)、エレクトーンのボタンを押して音色変化(聴覚、記憶、認知)、鍵盤のド音だけに人形を置くなどの内容をゲーム感覚で行うこともあります。

お子様が楽しい面白いと感じることが大事で、脳の報酬系が活性化することで学習効果も上がります。

リズム遊びをする

言語能力の向上には、聴覚だけでなくリズム感覚も関わっています。そしてリズム感覚は、ダンスなどの運動系にも関わりがあります。

プレクラスには、手拍子を打ちながら「そらまめ」「えだまめ」と4拍子のリズムを感じたり、「とんぼ」「かえる」と3拍子のリズムを感じる、言葉とリズムの組み合わせがあります。

そこから4歳の教本にあるリズム打ちに繋がります。お子様の様子が不安定な時は「おしり、おへそ」など喜びそうな言葉を選んで、3拍子や4拍子の手拍子をすることもあります。

短時間で、段階を踏んで進める

1回の練習はせいぜい5〜6分です。もし出来そうなら、休憩を挟んだり、時間を空けたりして2〜3回繰り返してください。

4歳〜6歳の集中力は、まだまだ発達段階です。20分も30分も続けて行うと集中力が落ちてしまうからです。

1回の練習ごとに、簡単な目標を決めておきましょう。始めは「今日は右手でドを3回弾こう!」 といった、お子様が「すぐに出来そう!」「そんなの簡単!」と思える目標にします。

モチベーションが上がったら、「もしかしてレも弾けるかなぁ?」と小さくステップアップ。少しずつ、課題へ近付けてみましょう。

課題全体でなくても「1小節目だけ」のように段階を踏んで進めても構いません。

「何となく練習」ではなく目標を決めること、5~6分の簡単な練習からスモールステップで始めること。小さな成功体験をたくさん積ませてあげましょう。

親子で練習する

幼児期は、親子一緒に楽器や課題に向かうことで、モチベーション、心のベクトルを高めてあげましょう。

しっかりしたように見える年長のお子様でも、気分が乗らなかったり、やりたい遊びを我慢していたり、日によって気持ちにムラや波があるものです。

特に、下に弟や妹ができたお子様は、保護者様と2人きりの時間が必要な場合があります。お兄ちゃんお姉ちゃんでいようと頑張って、小さな我慢を重ねていることが多いからです。

親子練習の時間は、自分1人で親を独占できる時間、甘えられる時間にもなります。継続しやすくするために、お忙しい中でも「このタイミングならできる」と言う時間をどこか1つ決めてみましょう。

無理強いしない

まだ幼い子供たちは「欲しい、やりたい」と感じたら、すぐ結果を欲しがります。待たされたり、何か条件を満たさないと貰えない、と言われると機嫌が悪くなることもあると思います。

これは報酬系の成長がまだ幼い段階だからです。練習した分だけ弾けるようになるのが嬉しいとか、コツコツ努力して進むことに楽しさを感じる、と思うのは大人の感じ方です。

コツコツ努力を続けたら弾きたかった曲が弾けた!と嬉しさや楽しさや達成感を感じるのも、「コツコツ努力を続ける」ができたから経験できることです。

コツコツ習慣がまだついていないお子様や、特にイヤイヤ期のお子様は、無理やり課題をやらせると、それだけで嫌気が勝ってしまいます。

気分や体調に合わせて、面白がってくれるような方法に変えて、短時間だけ行いましょう。

言葉がけはシャワーのように

少しでもキッカケでも逃さずに、ベタ褒めしてください。結果よりも過程で、モチベーションが上がる言葉がけや、ハグをしてあげてください。

練習中はもちろんですが、練習をしていない時も大切。練習の習慣がついていないお子様は尚更です。

褒め言葉だけでなく、情緒に絡めた言葉も良いです。

  • ○君の歌を聴くとお母さん元気が出るんだよ
  • ○ちゃんのピアノを聴くとお父さんワクワクするんだ
  • あの曲大好きだから、昨日○君が弾いてくれて嬉しかった

お子様は「自分が歌うと、大好きなお父さんお母さんが元気になるんだ」「お父さんお母さんは自分の音が好きなんだ」と知って、嬉しいはず。

もっと弾きたい、弾いてあげたい、と思ってもらえたら、保護者さまにとっても嬉しいですよね。

幼児の両手に顔が描かれた円形の黄色い紙

練習を嫌がるときは

イヤイヤが出ている時は、無理に進めることはしません。お家でも長い目で見守ってください。

指導者の観点から言えば、幼児クラスのうちに「お家練習→レッスン」という意識付けと習慣づけをしたいところです。

しかし、小学校入学を目の前にした年長さんでも、気持ちがのらない日はあるものです。


理由を聞く


2歳のイヤイヤ期とは違って、子供なりの理由があることが多いので、まず理由を聞いてください。

話を遮らず、否定せず、聞き役に徹して、最後まで聞いてあげるだけでも気持ちが落ち着くと思います。

下に弟妹ができたお子様は、お兄さんお姉さんでいようと頑張っているうちに、気持ちが疲れてしまうこともあります。しっかりして見えるお子様でも、実は小さな我慢をたくさん重ねている場合もあります。

今はお父様お母様を独占できる時間、甘えられる時間として、じっくり話を聞いてあげてください。

原因を見つける

大人の目線でも探す

お子様に話を聞くだけで終わらず、大人目線でも原因を探して理解しておくと、改善策を見つけやすくなります。

考えられる理由としては、疲労、忙しさ、興味が薄れた、宿題が難しい、宿題が多い、先生と合わない、過干渉、プレッシャー、環境の問題などがあります。

例えば、

  • 園の外遊びで疲れた、眠い
  • スケジュールが過密で疲れた
  • 同じ練習が続いて飽きた
  • やり方が分からない
  • なかなか出来ないので意欲が低下した
  • 子供の意見を聞かず、大人の考えを押し付けた
  • 子供の選択を尊重せず、親の選択を優先した
  • 子供の失敗を心配して、先回りして行動した
  • 子供が「自分は信用されていない」と感じている
  • 欠点ばかり目に入って注意してしまう
  • 練習に集中できる場所がない
認知機能の成長期という理由も

今は認知機能がどんどん成長している年齢なので、赤ちゃん時代とは感じ方が違ってきて、そのために不安定な時期が続く場合もあります。

やりなさい、やらないでね、という大人の指示をガンとして聞かなかったり、やりたい事や欲しいものが今すぐ手に入らないと不機嫌になったり。大変な思いをなさっている保護者様もいらっしゃると思います。

でも大人にだって練習に向かう気持ちには波があるものです。心身が成長過程にあるお子様なら尚のこと、波はつきものです。そのまま受け入れて、波に付き合う方法にシフトしましょう。

右手で楽譜を指差しながらピアノを弾く女児

改善へのアプローチ

レッスンは休まない

お家練習ができない時は、教室で思い出し練習をしましょう。

イヤイヤ期の場合は「教室は、お家で練習できなくても、先生と一緒に歌ったり弾いたりできる場所」と考えてください。教室は親子で楽しめる場として、お子様をレッスンに誘ってください。

レッスン間隔が長くなるほど、やったことを忘れて、できなくなります。幼い子供達は、出来ないと感じてしまうと、取り組むのを嫌がるものです。

ですからレッスンは休まず、教室で思い出しをさせてあげてください。

できれば週1回、同じ曜日に決めておくことをお勧めしています。園児は週単位で生活しているので、週単位のルーティンができやすくなるからです。

集中できる環境をつくる

まずは、集中できる静かな環境を整えることが重要です。練習部屋は静かですか?テレビやゲームの音がしない、楽器に集中できる場所を用意してあげてください。

選択肢を2つか3つ与える

イヤイヤ言っている時ほど「自分の気持ちを受け止めてもらえた」という安心感を感じてもらうことが大切です。

練習は毎日の生活習慣(お風呂、歯磨き等)とセットにして行うことをお勧めしていますが、セットの順序を逆にして「今日はお風呂を先にする?」と選択肢を増やしてみましょう。

選択肢はできれば3つ欲しいところなので「明日の服を選ぶ」等を加えても良いと思います。

お子様に「自分で選んでいいんだ、選ばせてくれるんだ」と感じさせてあげましょう。そうすれば自尊心も傷つけません。

目先をかえる

好きなものばかり弾いて宿題を弾かない、という場合なら、好きなものを弾くのも鍵盤に向かう時間に変わりないから良し!と考えてください。

もちろんレッスンへ行けば練習していないのがバレて困った!と思うでしょうが、それも経験の1つです。おおらかに、長い目で見てあげてください。

こんなレッスンもある

お家での遊び弾きから「あれ、なんかいいのができた」と言って、レッスンで聞かせてくれることがあります。たった2つ3つの音から、面白い音楽が生まれたりするのです。

作編曲の導入レッスンでは、3つの音符から始めて、簡単なメロディーを作る課題もあります。決まった答えは答えはありませんから、子供たちは自由に音を出して、続きの音を探しながら、考えるのです。

もしお子様が宿題もやらずに遊び弾きをしていたら、しかも夢中でやっているようなら、そのまま見守ってください。それほど夢中になっているなら、中断させて宿題をやらせなくても構いません。

「発明した時は、先生に聞かせて」お子さんみんなにかけている言葉です。自分だけのオリジナル曲に繋がるかもしれません。

遊び要素を入れる

繰り返して練習してくれない、1回しか練習しない、という場合なら、好きな物や、イベント感を加えるのも一案です。

人形遊びが好きなお子様なら、好きな人形を3つピアノの上に置いて、1回弾いたら人形を1つ籠に入れる。3つとも入れたら人形と一緒におやつを食べる。

家族の前で「発表会ごっこ」をするのも一案です。発表会の打ち上げに、いつもとは違うおやつを用意して、みんなで食べるのも特別感になります。

情緒的に絡める

お子様が、少しでも弾いたり歌ったりしていたら「○君のピアノの音が好き」「○ちゃんの歌を聞くとママ元気になるんだよ」と何度でも言ってあげてください。

課題の曲じゃなくても構いません。

お父さんお母さんは自分の歌や演奏が好きなんだ、自分の演奏はお父さんお母さんを元気にするんだ、と分かると、お子様はとても嬉しいはずです。


もっと弾きたい、もっと弾いてあげたい、と思う気持ちは、成長してからも大きなエネルギーになります。

ピアノの鍵盤の上にカラフルな音符が乗っている

お家では教えないでください。

宿題が正しくできなくても、保護者様は教えないでください。お子様が「何か違うんだな」と気づくキッカケ程度に留めてください。

「なんだか先生がやってたのと違う気がする」「なんだっけ?お母さん思い出せない」という程度にして、お子様が取り組むのを見守るだけで構いません。

うまく進まないようなら「今度のレッスンで先生に聞いてみる?」と次回レッスンに気持ちを向けさせてください。

教えない理由はレッスン内容

保護者様が教えない方が良い理由は、指導内容にあります。

教室では、1曲の課題で、リズム感、テンポ感、音感など幅広い力をつける指導を行なっています。1曲を多感覚的にアプローチする方法です。

これは、お子様の得意分野を見つけて伸ばしたり、幅広い土台を作ることに繋げるためです。

子供達が、考え方や取り組み方を知ったり、楽譜から様々な発見をするように促す指導手法も随所にあります。

そのため、お家で保護者様に弾き方を教えてもらったことで、予定していた指導が行えない場合もあります。

保護者様が教えたことでお子様が弾けたとしても、その曲の弾き方が分かっただけなので、次の課題へ活かせる応用力には繋がりません。

心配から、つい教えたくなることもあると思いますが「親に教えてもらった」だと「自分で頑張った」という喜びも感じられなくなってしまいます。

教室は初めてのことに挑戦し続ける場

教室で失敗をするのは当たり前です。初めての事ばかりする場所だからです。ですから、レッスンでは間違えてもいいのです。

間違えて弾いても「変な音になった〜!」と面白がってくれれば「なんか変な音!」という経験ができます。失敗は学びの宝庫でもあるのです。

幼児レッスンは、どんなに小さな進歩でも積極的に褒めて、無理強いをせず、お子様の状態に合わせながら、レッスン1回1回指導プランを立ててレッスンしています。

お家でも、お子様の歩く歩幅に合わせて、見守ってあげてください。

保護者様から「子供の自主性に任せています」という言葉をお聞きすることがあります。これは私が若手だった30年以上前からお聞きしている言葉です。

自主性は音楽に必須です。楽器の演奏は自分から音を発して、自分から表現する行為だからです。そして自主性が育つことで、練習にも前向きになります。

難しいのは、自主性に任せる時期です。

もしお子様が、目標に向かって進む方法を自分で考え、計画的に実行できるなら、自主性に任せる必要がある時期だと思います。

しかし、そこまで成長していない場合は、自主性に任せる時期ではないと感じます。まず自主性を育てる方が先でしょう。

そもそも「子供の自主性に任せています」は、子供に任せ切りにして関わらなくてもいい、ということではありません。

ベッタリだった状態から、様子を見ながら付かず離れずの段階へ近づける。先に手を貸したり、先に指示を言う状態から、過干渉にならない程度のサポートに留める。

それは一進一退で、長期間に及ぶかもしれません。その間、大人に求められるのは、工夫と根気、そして時に辛抱です。

大切なのは、子供の自主性を尊重することだと考えます。お子様の歩幅に合わせながら、適切なタイミングに、適度な関わり方をすることが、将来の自主的な姿に繋がると思います。


この記事について

この記事は、40年近い現場での指導経験と、音楽・指導法の研究、神経発達症(旧名称:発達障害)支援の研鑽、シンポジウム登壇とフィードバック、関連書籍からの情報を基にして書いています。記事の内容は私見であることをご了承ください。古い記事は適宜更新し、今お役に立つ記事を心がけています。プロフィール