この記事では、大人の自宅練習でよくある悩みと、無理なく音楽を続けるための考え方をご紹介します。他の年齢層の記事も、記事一覧からご覧いただけます。
南福島ミュージックルームには、20代から80代まで、幅広い年代の大人の生徒さんが在籍しています。
- 仕事をしながら通う方。
- 家事や家族の予定の合間に練習する方。
- 子どもの頃に習っていて、数十年ぶりに再開した方。
- 定年後に初めて楽器を始めた方。
生活スタイルも、音楽経験も、練習に使える時間も、それぞれ違います。
そのため「毎日○分練習する」という方法が合わない場合も珍しくありません。
大人の自宅練習で大切なポイントは
- 今の生活のまま続けられる方法を探す
- 練習できない時期の過ごし方を知る
- 分からないことを自分で解決する力と知識
- 自分の演奏を聞いて必要な練習内容を掴む力
です。

大人レッスンは目的もペースも人それぞれ
大人がレッスンを受講する目的は、さまざまです。
体験レッスンや入会のヒアリングで多いのは、
- 好きな曲を自分で読んで弾けるようになりたい
- 子供時代に辞めて後悔している
- 動画サイトでの独学に限界を感じた
- 大人の仲間と交流したい
- コード(和音の名前)を見て弾けるようになりたい
- 日常の中に音楽の時間を持ちたい
- 長く続けられる趣味を作りたい
目的や目標が違えば、必要な指導も、取り組み方も違います。
- 一曲を数か月かけてゆっくり仕上げる。
- 短い曲を数多く弾いて、ジャンル幅を広げる。
- 発表会を目標にして仲間を見つける。
- セオリーも実践で学ぶ
ここに、自宅事情、楽器の種類、練習時間などを考えあわせて、取り組む方法を見つけます。
大人になって楽器を弾くということ
練習中、頭と体は複数の動きを同時に行なっています。
- 楽譜全体を見る
- 音符やリズムを読む、解釈する
- 弾く鍵盤の位置を判断する
- 指や足の動かし方を判断する
- 次に弾く音を見ながら弾き続ける
- 音楽の流れや表現を考えて弾く
- 弾いた音を聞いて楽譜と比較する
これらを高速で処理しています。
高齢者を対象とした研究では、楽器の演奏を含む音楽活動と認知機能との関連が研究されています。
ただし、「楽器演奏をすれば認知症を予防できる」と断定できるものではありません。
教室では、健康効果を得ることだけを目的に楽器を勧めているわけではありません。
曲を読み、自分の身体を使って音を作り、
「昨日できなかったところが、今日は少し分かった」という経験を積み重ねること。
そして、自分の好きな音楽を自分の手で奏でられること。
そのこと自体に、大人になって音楽を学ぶ価値があると考えています。
言葉を使わずに自分を表現できる
大人になるほど、言葉だけでは整理できないことが増えることがあります。
仕事。
家庭。
人間関係。
将来のこと。
誰かに話すほどではない、小さな疲れ。
そんなとき、楽器の前では、誰かに説明する必要がありません。
好きな曲を弾く。
響きを聞く。
フレーズの流れに入る。
音楽は生活の問題を解決するものではありませんが、日々の生活の中に「自分だけの特別な時間」を持つことはできます。

「弾き方が分からない」をそのままにしない
大人の自宅練習で多い悩み
大人の生徒さんからは、よく次のような相談があります。
- 練習する時間が取れない
- 毎日続けられない
- 指が動かない
- 同じ場所で止まる
- レッスンでは分かったのに、家では分からなくなる
中でも、よく聞く言葉があります。
「弾き方が分からなくなりました」
この「弾き方が分からない」という言葉を、レッスンで詳しく確認してみると、
「この部分のリズムが分からないから弾けません」
という意味だったことが多いのですが、実は、ここに重要なポイントがあります。
「弾き方が分からない」の中身を探す
「弾けない」ときには、必ず原因があります。
その原因を掴むことが、最も重要なポイントです。
たとえば、
音が分からない
- 音符の玉の位置(ドレミ)が読めない
- 臨時記号を見落としている
- 鍵盤の位置が分からない
リズムが分からない
- 音符の長さが分からない
- 休符の長さが分からない
- 拍子を見落としている
- 拍子に合わせた拍の位置が分からない
- 左手と右手のリズムの違いが分からない
指使いが分からない
- 指番号と指が結びついていない
- 指替えの場所を見落としている
- 我流の指使いが癖になっている
身体が動かない
- 左右を別々のリズムで動かせない
- 指が届かない
- ペダルと手を合わせられない
- 速さについていけない
- 目の動きがテンポについていけない
音楽の仕組みが分からない
- どこまでが一つのフレーズか分からない
- 同じ形が繰り返されていることに気づいていない
- 和音進行のパターンを掴んでいない
- 伴奏形の規則性が見えていない
同じ「弾けない」でも、原因によって練習方法は違います。
リズムが分からないのに、最初から何度も弾き直しても解決しません。
問題が何なのかが分かれば、練習方法を選べます。
「原因をつかむ」ことも練習です
自宅では、先生は隣にいません。
そのため教室では、
問題が起きる
↓
原因を探す
↓
解決方法を考える
↓
試してみる
↓
変化を確認する
という流れを、一人でも行えるようになることを目指しています。
これは、教室が大切にしている音楽的な自立の一つです。
楽譜を一人で読めることだけが自立ではありません。
「ここが弾けない」と気づいたときに、
「なぜだろう」
と一度止まり、
「リズムかな」
「音かな」
「指かな」
「速さかな」
と原因を分けて考える。
そして、
「では、こう練習してみよう」
と方法を選ぶ。
この力が育つと、先生がいない自宅でも、自分で練習を進められるようになります。
教室が目指しているのは、先生に教えてもらえば弾ける人ではありません。
自分で問題を見つけ、自分で解決法を探り、試す。そうした学びを続けられる人です。

分からなくなったときの練習方法
原因が分からないときの確認方法
困ったときには、次の順番で確認してみてください。
1.どこで止まるかを特定する
「この曲が弾けない」「1段目の真ん中あたりが弾けない」ではなく、
「3段目の、2小節目の、3拍めで止まってしまう」
まで場所を絞ります。
そのために必要なのは、拍子と拍を確認し終わっていること。
レッスンで「拍ごとに縦線をひく練習」をしているのは、このためです。
2.片手なら弾けるか試す
右手だけ。
左手だけ。
片手なら弾けるのであれば、問題は音読みではなく、両手の組み合わせにある可能性があります。
3.鍵盤を使わずリズムだけ行う
手拍子などでリズム叩きをしたり、声で「タン・タタ・タウ」などリズム読みをして確認します。
この時、必ずメトロノームをゆっくり鳴らしてください。
テンポが途中で変わると、リズムも変化してしまうからです。
これでできなければ、指の問題ではなく、正しいリズムを掴んでいない可能性があります。
4.ゆっくりなら弾けるか試す
メトロノームを利用して、テンポを大きく落としてみます。
遅くすれば弾けるのであれば、処理する速さが追いついていない可能性があります。
この時、弾けたテンポがいくつだったか(数字で表します)、メモしておきましょう。
5.どうしても分からない部分は楽譜に印を付けておく
分からなかった場所へ印を付けて、次のレッスンにお持ちください。
「ここから分からない」と、拍や音符に印をつけておくのです。
原因が分からなかくても、場所を詳しく特定することはできる。
これだけでも、立派な学習の成果です。
場所が特定できない時は、そのまま次のレッスンで弾いてください。
お一人お一人に合わせた「これをこんなふうにすると分かる」をレッスンします。
動画を使って、自分の演奏を見る
教室でお勧めしている方法の1つです。
自分の演奏を客観的に見られるので、弾いている最中は気づかなかったことが分かります。
- テンポが少しずつ速くなっている
- いつも同じところで楽譜から目が離れて、音を間違えている
- 肘や肩に力が入っている
- 足の動かし方が大き過ぎてペダルのタイミングがずれている
撮影は、上手に弾けた演奏を残すためだけではありません。
問題を見つけるためにも使えます。
練習は、最初から最後まで弾くだけではありません
曲を最初から最後まで通すと、「今日は練習した」という実感は得やすくなります。
しかし、いつも同じ場所で止まる場合は、部分練習やブロック練習が必要です。
- 2小節だけ弾く
- 片手だけ弾く
- リズムだけ確認する
- テンポを落として(ゆっくり)弾く
- 難しい部分の少し前から始める
- 録音し、聴き比べて確認する
通し練習は、最後の過程で行うメニューです。
練習過程で大切なのは、
- はっきりした目的を持って、部分練習・ブロック練習を行うこと。
- 弾くたびに振り返って、次に必要なことを見つけること。
振り返りをせずに何十回も弾くより、
「必要なところを、必要な方法で弾く」へ変えていきます。

無理なく続けられる練習の形を作る
毎日練習できなくても構いません
大人の生活は、ライフステージによって大きく変わることもあります。
仕事が忙しい時期。
家族の予定が多い時期。
体調が安定しない時期。
家族の介護が加わる時期。
毎日同じ時間に練習できるとは限りません。
練習できない日もあるでしょう。
そんなときは、メニューを変えてみましょう。
時間がある日
- 部分練習をする
- 新しい曲を読む
- 表現を考える
- 一曲を通して弾く
少しだけ時間がある日
- 気になる場所を一つ確認する
- 右手だけ弾く
- 好きな部分だけ弾く
弾く時間が取れない日
- 楽譜を見て内容を思い出す
- 模範演奏や過去の録音・動画を聞く
- 指使いをサラッと確認する
- 次に練習する場所へ印を付ける
生活習慣と練習をセットにする
教室でお勧めしている方法です。
- 朝食のあと
- コーヒーを飲む前
- 夕食前
- 歯磨きの前
- お風呂へ入る前
など、毎日の生活習慣と練習をセットにして、その組み合わせを固定します。
時刻は厳密に決めなくても構いません。
「この用事が終わったら、少し楽器へ向かう」
という目印を作るのです。
その日の体調や生活を優先して「無理なく、少し緩く」が続けるコツです。
実際「ほぼ毎日練習しています」という生徒さん達の多くが実践しています。
レッスンで先生と一緒に練習する
大人の生徒さんの中には、住宅事情やご家族の事情で
「自宅ではほとんど練習できません」
という方もいます。
その場合は、レッスンで先生と一緒に
- 楽譜を読む
- 指使いを考える
- 部分練習をする
- 演奏上の表現を考える
- アンカー練習、通し練習をする
- 次の課題を確認する
と、一通りを進めています。
中には、曲を仕上げるたびに「弾いた記念動画」を撮影し
何本も保存している方もいます。
自宅練習をしていないからレッスンへ行けない、と思われる必要はありません。
練習できない時ほど、教室を頼っていいのです。
練習量より、一回の練習の質を見る
不安になると、
「もっと弾かなければ」
と回数を増やしたくなることがあります。
しかし、疲れた状態で何度も通すと、集中力が落ち、同じミスを繰り返す場合があります。
特に発表会前には、
- 1回を丁寧に弾く
- 気になった場所を確認する
- 少し休む
- もう一度弾く
という練習へ切り替えます。
教室の発表会指導でも、練習の重心を「量より質」へ移すことを重視しています。

年齢や生活が変わったら、練習方法も変える
モチベーションには波があります
何年も楽器を続けていれば、
「今日は弾きたい」という日と、
「今日はあまり弾きたくない」という日があります。
仕事、家事、体調、睡眠、季節、生活上の出来事によっても、楽器へ向かう気持ちは変わります。
それでも、モチベーションは高く維持したい、と思うもの。
時には気持ちが維持できずに、焦りや不安を感じることもあるかもしれません。
そんな時は「今は少しペースを落とす時期」と判断します。
- 短い曲へ変える。
- 昔弾いた曲を弾く。
- 好きな曲だけを弾く。
- すぐ弾ける曲をおさらいする。
- レッスン回数を減らして、隔週や3週間間隔にする。
そして余裕が戻ってきたら、少しずつ戻します。
年齢に合わせて、方法も変えていく
20代と80代後半で、同じ練習方法が合うとは限りません。
若い頃と比べて、
「覚えるのに時間がかかる」
「指が動きにくくなった」
「一度にたくさんのことを考えにくい」
と感じる方もいます。
その場合は、
- 一度に取り組む内容を減らす
- テンポを落とす
- 大きく見やすい楽譜を使う
- 書き込みの仕方を変える
- 繰り返す場所を減らして短くする
- レッスンと練習の内容を記録する
- 一曲にかける練習期間を長くする
など、方法を変えます。
大人のレッスン目的は、速く進むことではありません。
まずは、ご自分の身体と理解に合うやり方を見つけながら、音楽を楽しみ続けることを優先しましょう。

自分で音楽を続けられる人になる
大人だからこそ、自分で音楽を学べるように
レッスンでは、先生に言われたことだけを繰り返す状態から、少しずつ離れていきます。
- 「なぜ弾けなかったのか」を考える。
- 「何を変えればよいか」を試す。
- 「さっきと比べて、どう変わったか」を自分の耳で判断する。
- 必要な方法を見つけて、試す。
この循環が、自宅練習を支えます。
楽器の演奏は、自分でできるから楽しい
レッスンを受け続けなければ、
楽譜が分からない、間違いに気付けない、練習方法がわからない、
これでは「自分でできる」には届きません。
教室が目指しているのは、
・自分で楽譜を読み、問題を見つけ、方法を考え、試すことができる
・「こんなふうに弾きたい」を見つけられる
そうして、自分の音楽を楽しみ続けられることです。
ライフステージにいつも音楽がある生活
弾けなかった曲が弾けるようになる。
読めなかった楽譜が読めるようになる。
思うような音を出せるようになる。
こうした上達を感じると、嬉しくて気分が上がるものです。
大人のレッスンには、それだけでなく、時間軸を含めた楽しみもあります。
- 20代で始めた人が、50代になっても弾いている。
- 60代で再開した人が、70代になっても新しい曲に挑戦している。
- 80歳を過ぎても、自分の好きな曲を奏でている。
これは「大人ならでは」です。
教室が大切にしているのは、上達することだけではなく、
「生活の中に、音楽が長く残ること」です。
忙しいときには、少ない練習量で。
余裕があるときには、深い練習方法で。
分からなくなったら原因を探し、必要ならレッスンで一緒に考える。
ご自分に合う取り組み方は、ライフステージの変化に合わせながら、何度でも作り直せます。
ご自分の音楽をぜひ長く、お楽しみください。
関連記事
年齢層別の記事は、記事一覧からご覧いただけます。大人のレッスン内容について、詳しくはこちらからご覧ください。
参考資料
- Concina, E. “The Role of Metacognitive Skills in Music Learning and Performing: Theoretical Features and Educational Implications.”音楽学習におけるメタ認知についてのレビューです。自分で練習を計画する、自分の演奏を聞いて評価する、必要に応じて練習方法を修正する、そうした力の重要性を論じています。
- Araújo, M. V.ほか “Attitudes in music practice: a survey exploring the self-regulated learning processes of advanced Brazilian and Portuguese musicians.”
練習における自己調整の学習で、計画や評価などの行動を調べた研究です。 - Kim, S. J., Yoo, G. E. “Instrument Playing as a Cognitive Intervention Task for Older Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis.”高齢者の楽器演奏と認知機能に関する研究を整理したレビュー、メタ分析です。可能性は報告されていますが、研究された実数や方法が限られています。
- Tang, L.ほか “The effects of music-based interventions on cognitive function in cognitively normal older adults: a systematic review and meta-analysis.”認知機能に大きな問題のない60歳以上の人を対象にして、音楽活動と認知機能をランダムに比較試験し、研究しています。
この記事について
この記事は、南福島ミュージックルームで20代から80代後半までの大人の生徒を指導してきた経験と、練習についてのメタ認知、成人・高齢者の音楽活動に関する研究をもとに執筆しています。
適した練習方法は、年齢、音楽経験、身体の状態、生活環境によって異なります。また、楽器の演奏による健康効果や認知機能への効果は、必ず保証するものではありません。





