片手でピアノを弾いている男の子

児童のレッスンと練習

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お子様が「毎日コツコツ」の習慣を身につけるまで、なかなか骨が折れるものですよね。今回はそんなお悩みについて、理由と解決のアイディアを現場経験と脳科学や行動学的な考え方も含めて記事にしてみます。

レッスンから帰ったら、寝る前に必ずおさらいをする。これは生徒さんの年齢に関わりなくお勧めしている練習ポイントの1つです。

楽器を弾けるようになるには、おさらい練習が必要。大人なら考えるまでもなく分かることです。ですが子供達は違います。

まだ生まれて数年しか経っていないので、大人のように長期間かけて何かを継続して取り組んだり、その結果を手に入れた、と言う経験を積んでいません。

まさに今、初めてそれを経験し始めた、と言う時期になります。

それぞれ違う表情の顔が描かれた5つのおもちゃ

子供が練習しない理由

即時報酬がない

幼児期から就学時くらいの年齢は、脳の報酬系がまだ発達途中なので、即時的な報酬(すぐ貰えるご褒美)を欲しがります。

それは練習でも同じです。すぐ手に入る結果を求めるので、長期的な目標に向かって努力するより、すぐ弾ける、すぐ出来る、を好みます。

ピアノやエレクトーンは、練習の結果が出るまでに時間がかかるものなので、ある程度弾けるようになるまで、モチベーションを維持するの難しい場合があります。

成長と楽しさの結びつきが弱い

人は、欲求が満たされたり「満たされそう!」とわかったときに、気持ち良さや幸福感を感じます。これは脳の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するからです。

お子様も、楽しいと感じたり興味があることには脳が強く反応します。反面、楽しいと感じられない場合は脳が「後回しにしよう」とするのです。

前述のように、小さなお子様は直ぐにパッと出来ることを楽しいと感じます。

そのため「練習した分だけ弾けるようになるのが嬉しい」と、練習過程から自分の成長に気付いたり、そこに楽しさを感じるには、まだ幼い場合があります。

練習に向けたアイディア5つ

1.目標を小さくして成功体験を増やそう

まず目標までを細かい段階に分けましょう。そしてお子様が「これはできる!これなら出来そう!」と思えるような目標を設定します。

例えば「今日は楽譜の1段目だけ弾く」翌日は「2段目だけ弾く」3日目は「1段目と2段目を弾く」のように、スモールステップで進める方法です。

即時報酬はお菓子‥でも良いと思いますが、一番の報酬は保護者様の言葉がけと笑顔です。

結果が出た時よりも練習している最中に、小さな前進をベタ褒めしてください。

練習時間以外でも「○○ちゃんの音が好き」「キレイな音だね」「カッコいいね!もっと聴きたい」とモチベーションが上がる言葉をシャワーのようにかけてあげてください。

教室の宿題も段階的です

レッスンは細かい段階に分けて指導するので、宿題も段階的です。下記はその一例です。

4歳:お子様が先生になって保護者様に弾き方を教える

5歳:自分1人で練習に取り組む経験をする(思い出し練習)

6歳:先生と一緒に宿題を決める(練習内容を考える経験)

手指の発達が進む就学後は、部分練習やフレーズ毎に弾く練習も始まります。これは大人になっても行う基本的な練習方法の一つです。

ですからご家族は、曲の断片ばかり聞くことになると思います。曲の冒頭から最後まで通す宿題が出るのは、仕上げの段階が近づいてからです。

お子様が面白いと感じると、脳は積極的に取り組もうとします。ですから教室の宿題には、ゲーム性を持たせた内容もあります。

お子様の学習段階が進むと、ゲーム感のない宿題も増えます。この時に練習する様子が見られないようなら、ご家庭での取り組み方をゲームのように工夫していただいても構いません。

たとえば「今日は何回ノーミスで弾けるか挑戦しよう」「日曜日はおやつを用意して家族の前で発表会をしよう」

など、お家ならではの方法で、お子様がワクワク感やドキドキ感を感じられる方法が効果的です。

3.時間と場所を固定する

もともと脳は、パターンに基づいて行動する傾向があるので、場所と時間が決まってルーティンができ上がってしまうと、自然と練習に向かうことが多いです。

練習時間は、毎日決まった時間、タイミングにすると効果的です。歯磨きの前、お風呂の後など、生活習慣とセットにすることをお勧めしています。

練習場所は、ゲームやテレビの音が聞こえない静かな環境を用意してあげてください。お子様が落ち着ける場所を1つ決めて、同じ場所で取り組みます。

まだ1人で練習できない時期は、保護者様も一緒にいられる場所にしましょう。一緒に楽器に向かうのが難しい日は、お子様の目に入る場所で褒め言葉をかけながら取り組んでください。

大人がその時々の都合でやったりやらなかったりすると、お子様もその時々の気分でやったりやらなかったり、ムラになりがちです。

お忙しい毎日の中でも、一緒に取り組める時間・場所・方法を見つけておくと継続しやすくなります。

4.ポジティブなフィードバック

大人であれば「練習しなければ弾けるようにならない」と分かりますが、幼い子供達は違います。失敗して初めて分かることをたくさん経験している真っ最中です。

この時期は、上手くいかない=出来ない=面白くない、という負のループにはまりやすい時期です。

ですから、叱りたい言葉の代わりに、モチベーションが上がる言葉を、お子様の一番のファンとしての言葉をかけてください。

言葉がけは、結果ではなく、今頑張っていることの褒め言葉です。どんなに小さな前進でも、時にはハグもしながら、褒めちぎってください。

ポジティブなフィードバックは、脳の報酬系を活性化させて、ドーパミン(いわゆる幸福ホルモン)を分泌させます。ドーパミンは幸福感を高めてくれるので、意欲、やる気に繋がる物質です。

褒め言葉は、なるべく具体的な方が効果的なので、なんとなく「良かったよ」というよりも「ここのフレーズが素敵だったね」「すごくキレイな音だったね」という言い方の方が良いです。

今日の一歩を褒める言葉も、お子様にとって嬉しいご褒美です。

「たくさん続けて弾けるようになったね」「今日は5回も弾いたの、すごいね!」「1人で何回も練習できるようになったんだね、お母さんビックリした!」

お子様の小さな一歩をたくさん見つけてあげてください。

5.家族全員で応援する環境を作る

家族が自分の演奏を聞いてくれる、家族が一緒に音楽を楽しんでくれる。そういった家族との関わりは、お子様のモチベーションを大きく高めます。

例えば、月1回家族コンサートを開いたり、他の家族やお友達と一緒に演奏することでも、練習が自分1人の孤独な作業ではなくなります。

共通の楽しみを持つ仲間ができることは、お子様の成長を促してくれるはずです。


練習を習慣づける取り組みは、早い段階から少しずつでも実践し続けることが大切です。そうすることで、練習に前向きになったり、自分から楽器や課題に向かう可能性が高まります。

大切なのは、プレッシャーをかけすぎないこと、そして「練習しなさい、やりなさいよ」の言葉だけで終わらないことです。それは、お子様の目から見れば丸投げされたような状態だからです。

大人もそうですが、楽しみながら進む方がモチベーションを維持しやすくなります。ご紹介したヒントやアイディアがお役に立てば幸いです。


この記事について

この記事は、40年近い現場での指導経験と、音楽・指導法の研究、神経発達症(旧名称:発達障害)支援の研鑽、シンポジウム登壇とフィードバック、関連書籍からの情報を基にして書いています。記事の内容は私見であることをご了承ください。古い記事は適宜更新し、今お役に立つ記事を心がけています。プロフィール